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北田まり /目標

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北田まり

平成22年度 第32回小学生の部 最優秀賞

近畿地区代表
京都府 東輝剣道クラブ

 「整列」私の通う道場では6年生が、稽古の号令をかけます。今年は私も号令をかける学年です。剣道を始めて7年。号令は当たり前の様に、頭や耳に入っていたし、体も自然に動き、返事もしていた号令。初めて号令をかけた日、いつもと違いました。皆から帰ってくる返事は小さく、皆の竹刀はバラバラ。稽古の後、兄に「号令の間が悪い。」と言われ、私は、「そうか。間が悪いのなら、もうすこしテンポを早くしたらいいのか。簡単、簡単」と思い、次の稽古の時、その事を思いながら号令をかけました。でも、やっぱり同じでした。何年か前、兄が号令をかけていた時は、道場の皆が真剣になり、素ぶりの時から一生懸命でした。「何が違うんやろう」兄と私の違いといえば、兄は声が大きい。私は声が少し小さい。兄は男。私は女。兄は丸坊主。私は髪が長い。兄の顔は怖い。私はきっと怖くない。色々考えましたが、どうしたら兄の様にビシッとした号令がかけられるか、分からない。でも兄に相談するのはちょっと悔しい。母に相談しました。「私の号令やったら何か違うねん。どうしたらいい?」母は、「海人は海人。まりはまり。違っていたり、やり方も違って当たり前。まりはまりのやり方でやったらいいよ。でも海人がどんな気持ちで剣道してるか、考えた事あるか。」「え。気持ち。」やり方を相談したのに気持ちって。私はそれまで兄との違いを外から見える事ばかりで比べていました。兄は生まれた時から右目に障害があり、4才までに何回も手術をしましたが、右目は明るいか、暗いかしか分かりません。そんな兄が剣道と出会い、道場の先生方や色んな方に支えられ、剣道を続けています。稽古の時だけでは、片目でなかなか距り感がつかめず、家でも竹刀の長さと相手との距りをつかむために、カウンターを相手に距りを確かめたり、何度も打ち込みをしたり、人一倍剣道にかける思いがあるのを、いつも見ているのにその事を忘れていました。私は両方の目がしっかり見えるのに、外から見える事ばかり考えて悩んでいました。母が言った、「どんな気持ち。」という言葉。私はどんな気持ちで剣道をしているんだろう。剣道は大好き。仲間も大好き。試合にも勝ちたいから稽古も頑張る。でもしんどい時は、顔や態度にも出てしまう弱い気持ちの自分がいる。「そうか。弱い気持ち。」私は今まで兄や先輩を頼り、誰かが引っ張ってくれるから、それについていけばいいと思っていました。先輩にも自分にも甘え、「誰かから。」を待っていました。そんな気持ちが号令にも出て上手くいかなかったのかもしれません。稽古時、先生や兄の口から「自分から」の言葉が飛び出します。自分から行動や、やる気を起こすことが何よりも大切なんだと思いました。
 兄は剣道の時、いつも一生懸命です。私は兄の様に心も剣道も強くなれないかもしれませんが、勝ち負けだけではなく、外見でもなく、心を鍛え、色々な事を私に気付かせ、辛い事も楽しい事も一緒に経験する仲間がいる剣道。私から剣道を取ったら何も残らない。大切で大好きな剣道だから、私は私のやり方で一生懸命自分から必死で頑張り、真剣に向き合おう。と思いました。
 今年の夏、兄の目は11年ぶりに再発が見つかり、たて続けに2回手術をしました。辛かったでしょう。痛かったでしょう。私なら泣いてばかりいたと思います。でも兄は一言も文句を言わず、弱音も吐きませんでした。ふ段はケンカもするし、偉そうに、と思うこともありますが心の強い兄をほこりに思います。きっと兄は剣道と出会ったからこそ、あんなに心が強くなったんだなと思います。だから私も、外見だけではなく、心の目で物事を見る、心の強い剣士になる事を目標にし、将来の夢である、小学校の先生になって大好きな剣道を通して「心の大切さ」を教えられる人になりたいです。そして、今日も「一生懸命」と「自分から」を忘れず、大好きな仲間と稽古をします。「整列」