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谷戸紳太郎 /努力の達人

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谷戸紳太郎

平成22年度 第32回中学生の部 優良賞

関東地区代表
神奈川県 征道館岩尾道場

 中学生生活も折り返し地点となり、僕の勝負の相手は自分も含め人間だけではなくなりました。以前から色々な試練が僕を待ち構えているとは予想していましたが、これほど時間の遣り繰りに苦戦するとは思ってもいませんでした。道場での稽古、学校の勉強、部活動、生徒会活動、塾。どれをとっても僕は時間に追いまくられ納得のいく取り組みが出来ず気持ちばかりが焦り、そんな折に怪我までしてしまいました。何故こうも上手く事が運ばないのだろう、という自分自身に対する憤りを押さえられないまま翌朝、早くに目が覚めた僕は近くの神社に怪我が早く完治する様、願掛けに行く事を思い付き出かけました。早朝の神社に人影など無く、澄み切った空気、静まり返った境内、砂利を踏みしめる己の足音。そこには、ピンと張り詰めた厳粛な空間がありました。おのずと気持ちが引き締まり面を付けた瞬間の緊張感あふれる感覚が甦ってきました。そして、その厳粛な空間は僕が忘れかけていた剣の道の本質を改めて考えさせてくれる場となりました。
  剣道は目先の損得や勝ち負けを超越し己の精神力が問われる武道であり、その精神力は小さな努力の積み重ねと辛い事に立ち向かう為の一歩を踏み出す強い意思から培われるのだ、という考えが心の底から湧き上がって来ました。振り返ってみると中学生になってからの僕は時間に追われて忙しい事を言い訳にすべての事を中途半端な気持ちで済ませていた様に思います。
  今、僕がやるべき事。それは自分が直面している状況に不平不満を募らせる事ではなく、今、自分に与えられた逆境をいかに発想転換し克服していくかという事で、その心掛けこそ剣士としては勿論の事、学生として、また社会の一員として大きく成長する為に必要不可欠な事なのだと気付きました。それこそが僕が目指すべき努力の姿なのではないかと思いました。
  きっと努力とは特別な事をするのではなく、一見簡単と思える取り組みを日々積み重ねる事なのだと思います。そして簡単だからこそ、つい疎かになり、続ける事が難しいのかもしれません。忘れてはいけないのです。「継続は力なり」という事を。今の僕にとって続ける努力とは僅かな時間では何も出来ないと見過ごすのではなく僅かな時間でも出来る事を見つけ出し、一生懸命取り組み続ける事なのです。週に一度しか道場に通えないのなら、その一度を悔いのない充実した稽古となる様、常に心掛ける事なのです。竹刀の一振り一振りが心の糧となる様、精一杯努力したい。そんな気持ちになりました。地道な努力は直ぐには結果が出にくく辛い事が多い様な気がします。そして剣道に限らず辛い事から一度逃げれば、この後の人生全て逃げ癖が付いてしまうでしょう。だからこそ精神力を問われる剣道を志す者として困難から逃げる訳にはいかないのです。直向きな努力で身に付いた技は必ず実戦で生かされ試合に関わった全ての人から認められる会心の技になると信じています。だから僕はその日から毎朝神社に通い朝稽古をする事にしました。怪我を言い訳にしたくない。初心に返り、今出来る事を精一杯頑張る事から始めれば良いのだと考え、基本の素振りと境内のゴミ拾いをする事が僕の日課となりました。勉強も疎かにしません。僅かな時間でも必ず取り組む様にしました。僕の本気の努力は始まったばかりです。
  剣の道は弛まない努力の中にあると確信しています。努力する事が何よりも大切な事だと信じている僕は勝負に強い剣士にはなれないかもしれません。
  でも「努力の達人」にはなれるかもしれない。後は結果を信じて続けるのみです。
「自分が頑張った分だけ結果は必ずついてくる。」
そう信じて今日も僕は努力を続けます。
「努力の達人」を目指して。