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平成22年度 第32回中学生の部 最優秀賞
東北地区代表
福島県 富岡町少年剣道団 |
剣道を始める理由は十人十色、百人いれば百人それぞれに理由があるだろう。私が中学校の剣道部に入部したのは、将来警察官になりたいという小さな夢への第一歩としてだった。優しい先輩に基本を教わり、仲間と楽しく汗をかいてきた。「優しい」「楽しい」練習に当然ながら結果はついてこない。そしていつしか、
「どうせやっても勝てないし。」
が口癖となり、楽しい時間は面倒臭い、疲れるだけの時間になっていった。
昇段審査の直前、集中練習ということで地元の剣道団の先生に稽古に誘われたのは、部活に飽きかけていた中一の冬だった。先輩と参加したその稽古は今まで自分がやっていた部活とは180度違うものだった。正直、言葉がでなかった。
「これが剣道なんだ。」
私の心が呟いた。と同時に、ここで自分を試してみたいという気持ちが湧いてきた。この稽古に参加する自分、そして試合で勝つ自分を想像した。入団するのに迷いは無かった。
早い子なら幼稚園の年中から始めている。年下でも剣道歴5年、6年は当たり前の後輩。先輩とは本当に名ばかりで、小学生が難なくこなす稽古についていけない。
「始めたばかりなんだからしょうがない。」
弱い気持ちだけはどんどん成長し、「足が痛い」と見学する日が増えていった。道場へ行っては見学する、の繰り返し。気持ちが揺れ始めていたそんな時、見学している私に先生が言った。
「だまされたと思って半年、頑張ってみろ。」
自分でやろうと決めて入ったのに、いつの間にか自分の決意を自分が打ち消してしまっていたことに気付いた。弱い自分に、本当の自分が負けてしまっていたのだ。
「そうだ。がんばろうって決めたのは自分じゃないのか。先生を信じてもう一回、頑張ってみよう。」
足が痛いと感じるのも自分、我慢できると思うのも自分。辛い追い込みに途中で諦めるのも自分なら、もう一本、もう一歩、前へ行くのも自分なのだ。弱い気持ち、言い訳する自分と闘いながら、目標の半年が過ぎた。振り返れば一瞬とも思える程早かったような気がする。その頃になると、注意ばかりだった先生から少しずつほめられるようになっていた。
「ナイス、小手」
「今の面を忘れるな。」
半年前とは違う私がそこにいた。少しずつ、いつの間にか出来なかった技ができるようになっている。そう言えば稽古も休まず続けている。追い込みも休まなくなった。ちょっとずつ、でも確実に成長していることを感じた。
自分で作り上げた自信は部活にも出せるようになっていた。時間が来たら始まって何となくやったら終わり。そんな毎日だったが、「こんな風にしたらいいんじゃないか」と同級生や後輩たちに言えるようになった。部員全員が気持ちを一つにした充実した時間を過ごせるようになっていった。中体連当日、私たちは今まで積み重ねてきた稽古のすべてを一試合一試合に出し尽くした。勝つ者あり、負ける者あり、だけど補欠や応援も含めた全員の心が一つにまとまった瞬間だったと思う。結果は予選リーグ抜け決勝トーナメント進出。満足と納得のいく答えに、やり遂げた充実感ですがすがしい気持ちで胸がいっぱいになった。
剣道に限らず何をやるにしても、相手に勝ちたいと思うだろう。その為の最大最強の敵は自分だということを剣道を通して学んだ。弱い自分と闘い、この先何度も挑んでくるこの相手に、もう負ける訳にはいかない。自分の力で手に入れたこの自信を武器に、私は闘い続けていきたい。
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