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平成21年度 第31回小学生の部 優秀賞
中部地区代表
岐阜県
剣心館立川道場 |
5歳の時に出会った剣道。僕は、竹刀と共に成長し、練習を重ね、まっすぐに面を打つ技を身に付けてきました。そして、低学年の頃には試合で勝つことができるようになり、岐阜県大会個人戦でも
優勝することができました。
ところが6年生になった頃、僕は全く勝つことができなくなりました。試合で打ち合う面は全て相
手に乗られるようになってしまったのです。やる気一杯で臨んだ日本武道館での全国大会でも、チームはコート準決勝まで進出したのに、僕は一勝をあげることさえできなかったのです。僕は身長140セ
ンチ、小さいから勝てないのだろうか。負けるなんて格好悪い、負けたら意味がない。僕は自問自答
を繰り返しました。しかし、あせればあせるほど「勝ち」は遠のき、負けるたびに僕は落ち込んでいきました。まるで、底のない穴の中を転げ落ちていくように。
その日もいつものように「何となく」道場に行き、「何となく」練習が終わり、先生のお話が始まり
ました。「試合で勝ったり負けたりするが、そんなこと、どうってことないことだ。」その言葉は、い
つまでも僕の頭から離れず、僕はその意味を考え続けました。「勝たなければ意味がないのではないか」と心の中で悲鳴をあげるほど苦しみました。
そんな時、先生が仲間に問われる声を耳にしました。「何のために剣道をやっているんだ。」即座に返ってきた答えは「自分のためです。」それを聞いた僕は、「勝ち負けは問題ではない」の意味が少し分かったような気がしました。勝つために剣道をやっているのではない、勝ちは「結果」なんだと。
しかし、自分のためとは、一体どういうことなのか、その時の僕には、まだ理解することができませんでした。深い穴から出られそうで出られない、そんな気分でまた試合がやってきました。僕がチームの足を引っぱったのは、言うまでもありません。僕はそんな自分が情けなく、悔しくてたまりませ
んでした。その時、先生が僕にかけてくださった言葉が忘れられません。「勝つために剣道をやってい
るのではない。勝ったり負けたり、そんなことは問題ではない。それよりも目標に向かってどれだけ
がんばってきたのかに意味があるんだ。汗まみれでがんばった苦しい夏の稽古、寒さに耐えてがんば
った冬の稽古、それを乗り越えたということに意味があるんだ。」
道場を出た僕の心の中には、いろいろな感情が渦巻き、涙があふれて止まりませんでした。そうか、
勝つための剣道ではなく、大切なことはそれまでの過程なんだ。どんなに苦しくても仲間といっしょ
にがんばってきたという事実が僕の自信なんだ。僕の力なんだ。励まし合い、助け合い、認め合う。
そのことこそが大切なんだ。自分のためになるのだ。
僕は今、剣道を通じて多くのことを学び、体を鍛え、心を鍛え、強い人間になりたいと願っていま
す。それは、大人になって社会に出た時、どんなにつらいことがあっても、苦しいことがあっても、
それを乗り越えていける強い心をもった人です。そして、困っている人に手をさしのべることのでき
る優しい人です。
僕は今、「何となく」行く剣道ではなく、「何かを見つける」剣道を積極的に楽しんでいます。稽古
の後の先生のお話も楽しみの一つです。僕を深く暗い穴から引っぱり上げてくださった先生のお話は、
剣道だけでなく、生きていく上での大切なことを教えてくれるのです。僕は先生が大好きであると同
時にとても尊敬しています。先生が剣道を通してこんなにすばらしい人になられたのかと思うと、ますます剣道が好きになります。いろいろなことを気づかせてくれる剣道は、僕の大切な宝物です。こ
れからも、剣道まっしぐらに進んでいく覚悟です。
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