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平成21年度 第31回中学生の部 優秀賞
近畿地区代表
滋賀県
八幡西清流館道場 |
「勝負あり!」審判の先生の声と湧きおこる拍手が、僕の挑戦が終わったことを告げていました。
「3回だけやで!3回行ったらやめるで。」母に無理やり勧められ、僕が道場の門をくぐったのは4年
前でした。小さい頃から喘息と発達障害を抱えていた僕は、人と関わるのが苦手でした。言葉の把握
が難しいことを理解してくれる人は少なく、誰にも心が開けずにいた僕。そんな僕は何をしても途中
で挫けてしまい、信頼できる仲間も目標もなく学校の年間欠席日数は50日を超えていました。心配した母が道場の先生に相談すると、先生は全てを受け入れて下さり、僕は剣道を始めることになったのです。道場に入ると真剣に向き合って下さる先生がいました。病気で休みがちな僕でも、根気よく誘
って下さる姿に次第に心を開けるようになっていきました。道場に通ううちに、全国大会に挑戦しよ
うと懸命に努力している中学生の姿を見て、いつしか僕も挑戦してみたいと思うようになっていまし
た。僕には「中学で県大会に優勝し全国大会へ行きたい」という夢が生まれました。これが僕の挑戦
の始まりでした。僕の障害は年齢とともに良くなると言われていましたが、それでも人の何倍もの努
力が必要です。休みの日は、竹やぶの竹が折れるまで何時間も切り返しをし、時間があれば家の柱や
電柱に防具をくくりつけて練習しました。例え僅かな時間でも剣道がしたいと思うようになっていま
した。僕は中学に入り、道場の先生が顧問をされている剣道部に迷わず入部しました。ともに入部し
たのは男子6人女子1人でした。男子は団体、女子は個人で全国大会を目指すことを誓い、僕の夢が
剣道部みんなの目標になりました。初めて行った遠征は、48敗2引分で、全国大会への遠さを感じま
したが、僕もみんなも諦めませんでした。何が足りないのかをみんなで考え、夜稽古に励んだり、他
のチームを見て、竹刀や防具の置き方などを工夫しました。部活がない日も僕は格技場に行き気持ち
よく稽古できるよう掃除をしながら、どうすれば理想のチームになれるかを考えました。そんな中、
ある遠征に行った時です。僕は喘息の発作が出てしまい、辛くて試合に集中できなくなりました。チームはリーグを抜けられるかどうかの瀬戸際です。迷惑をかけないためには、メンバーを代わるしかないと思った時、「大丈夫や、頑張れ。」とみんなが声をかけてくれたのです。辛くても僕がやり切るんだ…と気づかせてくれたのはチームの仲間でした。先生や家族、みんなに支えられたうえに僕の挑
戦があり、互いに信頼し合える仲間がそこにいてくれることを実感しました。
2年生の夏になり、僕がキャプテンの新チームになりました。稽古はもちろん感謝の心を持つことが大切だと思い、学校の奉仕活動なども進んで行いました。自分たちから動くことが先をとることに繋がると考え、生徒会にも積極的に参加し、僕と部員の大半は現在も生徒会役員です。振り返れば、
僕は4年間で大きく強く変わっていました。簡単には語りつくせない4年間でした。そして最後の夏の大会を迎えました。会場には、根気強く教えて下さった先生方が、ずっと支え続けてくれた家族が、そしてともに励まし合ってきた仲間がいてくれました。たくさんの人達の思いが僕の力の源になっていると感じながら気がつけば決勝まできていました。
「勝負あり!」結果は団体準優勝で、全国大会を逃してしまいました。でも、近畿大会出場と女子個人が全国大会出場を決めたこと、僕を含む2人が滋賀県選抜代表になれたことは、剣道部全員の誇りです。自分自身の目標は達成できなかったけれど、僕たちの歩いてきた道の中には消えることのない感謝と挑戦がありました。大切なのは結果ではなく、感謝の気持ちと諦めずに挑戦し続ける強い心と思いました。僕は、これからも新たな目標に向かい挑戦し続け、僕と同じような障害を持つ人たちの励みになっていきたいです。
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